2016年2月5日金曜日

ライバル

午前中、11時頃に日本人グループがやってきた。
いつも通り、添乗員さんにごあいさつ。
こちらの顔すらもほとんど見ず、そっけない。
実は、予想通り。
もうすでにバスを見ているので、どこの旅行会社なのかは分かっている。
この旅行会社は、お客様へのサービスを特に重視している。
今は知らないが、20年前には、社長さん自らが、空港でお客様のお見送りに駆けつけるほどの過剰サービスだった。
したがって、お客様へのトラベルを避けるために、他所からのコンタクトを徹底的に排除したいというわけだ。
案の定、クリプータにあるお土産もの屋さんのお兄ちゃんも英語で話しかけていたが、
つっけんどんにされていた。
添乗員さんの立場を理解しているとはいえ、アプローチは大切。
このグループは、他の日本人グループと違って、1時間はクリプターナに滞在する。
添乗員さんにクリプターナの観光資源を説明し、旅行会社に戻った時に同僚たちに伝えてもらいたい。
クリプターナにあるのは風車だけではない。


自分 「風車の中に入りますと、私が無料で風車の説明をします。」
添乗員 「この後、コンスエグラに行きますので、風車はそこで入場します。」
自分 「市の無料トイレがツーリストオフィスの裏に用意されています。」
添乗員 「ここで食事をするので、そのレストランを使います。」
自分 「クリプターナには、風車だけではなく、洞窟の家工芸美術館も用意されています。」
添乗員 「はいはい、分かりました。」

何の興味も示してくれない。
『もう分かりました。邪魔ですからあっちへ行ってください。』と言われる寸前のところで退散。
ただ、伝えるべきことはみんな伝えた。
日本人観光客たちを傍観しながら考える。
おかしい。1つ腑に落ちない。
クリプターナの風車よりコンスエグラの風車に入場したいとは。
クリプターナの風車は、コンスエグラの風車より歴史がある。
それに有名なドン・キホーテの舞台となった風車である。
おまけに入場料も安い。
入場料!?ああそうか。大事なことを忘れていた。
コンスエグラはアンダルシア街道沿いにあるという地の利で、1日10以上の日本人グループが押し寄せる。
しかし、クリプターナ同様、村に一銭のおカネも落ちないことで有名だった。
そこで、昨年から大型バスに対して駐車料金を課すことにしたのだ。
さすがに口にこそ出してはいわないが、日本人グループから強制的におカネをとることを目的としていることは明白である。
コンスエグラも風車は丘の上にあるので、下から歩いて登るのはちょっときつい。
ただ、そうやって、おカネをとることに気が引けたのか、駐車料金を払ったグループは、風車に無料で入場できるのだ。やられた。
クリプターナにさえ来てくれれば、誰かが風車に入場するだろうと思ったのが、大間違い。コンスエグラの利点は、地の利だけではなく、このシステムにもある。クリプターナとコンスエグラの両方を訪れるグループはコストを下げるため、コンスエグラの風車に入場するのである。さすがだ。まさに強力なライバル。
考えていると、添乗員さんがレストランに1人で向かう。当然、何もすることがないので、レストランの時間を早めにできないかという交渉であろう。
そうなると、観光客たちが写真をとる手伝いをしてくれる人がいなくなる。
チャンス到来。出番である。
自分がツーリストオフィスの日本人スタッフである旨をつげ、写真のお手伝いを申し出る。
すると、最初は、恐る恐るシャッターを押してくれると頼む人たち、それに対し、笑顔で気持ちよく対応。すると、なかには、クリプターナに関して質問をしてくる人たちも現れる。観光客たちが少しずつ心を開き始めているのが伝わる。
やがて、添乗員さんが戻って来る。勝負どころである。

自分 「お客様からかなり質問も出てますし、クリプターナや風車について、説明いたしましょうか?」
自分 「無料ですし、自分は市の職員ですから、チップ等も一切、いりません。」
添乗員 「分かりました。」

実は、風車に入場されないお客様に対し、オフィスの外で村や風車の説明をするのは、ツーリストオフィスの業務ではない。
自分のねらいは2つある。
1つは、純粋にわざわざ地球の反対側から来られた日本人観光客の方々にできるだけ、クリプターナを知って楽しんでもらいたい。
もう1つは、この旅行会社に対して、カンポ・デ・クリプターナ市が日本人観光客を大切にしており、風車だけではなく、洞窟の家工芸美術館もあるということをアピールしたい。この旅行会社の日程にはその余裕がある。
このグループが昼食が終わった頃を見計らい、バスまでお見送りに行く。
観光客たちは、喜んでくれたようなので、ホッとした。
種はまいた。ただ、芽が出るかは分からない。簡単ではない。根気の勝負だ。



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